以下の説明は今回の温度計を作成したときに調査した事項をまとめたものです。
ダイオードで温度が測れるのは何故?
シリコン・ダイオードの順方向電圧は接合部の温度が変化すると−2mV/℃の割合で変化します。
通常20℃の順方向電圧は約600mVです。接合部の温度が100℃上がって120℃になると約400mV(600mV-(2mV/℃ x 100℃))になります。
今回の温度計ではこの電圧の変化を計測し、温度として表示しています。
測定可能な温度範囲はダイオードの許容温度以内で、ダイオードの種類にもよりますが約−20℃から150℃まで可能です。ただし、温度変化の割合は必ずしも直線的ではないので、誤差がでますので、厳密な計測はできません。通常、ダイオードはガラス、プラスチックに封入されています。ですから、周囲の温度が急に変化してもすぐにはダイオードの電圧変化にならない場合があります。
ICL7136はどのようなIC?
ICL7136は入力の電圧を正確に計測する機能、表示器を制御する機能が1チップに組み込まれているCMOSのICです。
±200mVまたは±2Vまでの電圧測定が可能です。
ICL7136は表示器としてLCDを使用するタイプで、表示器にLEDを使用するタイプとしてはICL7137があります。
液晶表示部の制御は周波数が約60Hz(48KHz/800)で電圧が5.5Vp-pの矩形波信号で行われます。
電圧の計測方法は入力電圧を一定時間のエネルギーに換算し、このエネルギーを計測する方法で正確な計測を可能にしています。計測するエネルギーは入力から取り込むのではなく、入力電圧に相当するエネルギー(コンデンサに蓄えられる電荷の量)を内部で発生させ、それを計測する方法を採っています。ですから、入力インピーダンスは非常に高く(1GΩ以上?)、入力電流はほとんど流れません。
ICL7136では右の図のような計測プロセスを1秒間に約3回行います。
4000クロック/回 = 4000 x (4/48000Hz) = 0.33秒/回
ゼロ設定期間では計測回路をゼロ基準電圧に設定すると同時に基準電圧用のコンデンサ(CREF)への充電が行われます。
入力積分期間では入力電圧に相当するエネルギーを計測用のコンデンサ(CAZ)に蓄えます。
計測カウント期間では計測用コンデンサ(CAZ)および基準電圧用コンデンサ(CREF)のエネルギーを放電させ、ゼロ基準電圧になるまでの時間を計測します。
計測カウント期間でCAZおよびCREFのエネルギーの放電を行うため、CREFに蓄えるエネルギーの大きさを変えると計測の最大値を調整することができます。
今回の温度計ではVR2で低温時の表示を設定し(ゼロ設定)、VR1で高温時の表示を設定(測定幅設定)を行っています。
ダイオードの順方向電圧は先に説明したように温度が上昇すると電圧が低下する(-2mV/℃)特性を持っています。ですから、単純にダイオードの順方向電圧を表示したのでは温度が上がると表示の数字が下がることになります。これでは温度計になりません。
ICL7136は「High」と「Low」の入力端子を持っています。また、電気的な接地(Common)を持っています。COMは電源のマイナス側とは別で内部で作っている電気的接地です。入力電圧の測定は「IN HI」と「IN LO」間の電位差を計測します。
左の図の場合、HIとLOの電位差は VH - VL になります。温度が上がってダイオードの順方向電圧(VL)が小さくなると電位差は大きくなるので、表示される数値も大きくなるわけです。
液晶はどのような仕掛けで動作する?
液晶とは液体の性質(流動性)と固体の性質(結晶)を兼ね備えた状態のことです。液晶という物質があるわけではありません。物体は温度が低いと固体状態、温度が上がると液体状態、さらに温度が上がると気体状態になると学校で習いましたが、液晶状態は固体と液体の中間的な状態になります。常温でこの性質を持っているビフェニール系の物質を使って液晶ディスプレーは作られています。
身近なところで液晶状態のものは石鹸水、イカの墨などが液晶状態だそうです。液体でありながら結晶構造を持つということです。イカの墨はいつも黒いので表示用には使えません。(工夫すれば使えるかも知れません)
以下の説明で「液晶」という言葉は「液晶状態を持っている物質」のことを指します。
TN(Twisted Nematic)液晶ディスプレーの構造は光の振動を一定方向にする偏光板を前面と裏面に置き、その間に細かな溝を持った板を配置し、その中に液晶を封入した構造をしています。前面側の偏光板および溝板と裏面側の偏光板および溝板は90度ずらして配置します。
溝板の間に液晶がない場合には偏光板が90度ずれているので光は通りません。しかし、不思議なことに溝板の間に液晶を入れると光が液晶で90度ねじれて光が通るようになります。これは液晶の結晶が溝板に沿って並ぶためで、結晶の並びは前後で90度ねじれて並び、光りは結晶に沿って進むので90度ねじれるわけです。不思議ですね。
液晶ディスプレーに電圧を加えない場合はこの状態で、ディスプレーの後ろが透けて見える状態です。
液晶の両側に電気を加えると電磁界の影響で液晶の結晶が一定方向にそろいます。すると今まで液晶でねじれて進んだ光はねじれずに真っ直ぐ進み、後ろ側の偏光板で遮られ通らなくなります。
黒く見える状態になります。
直流の電磁界の場合、この状態で少し放置すると結晶は元の場所に戻り、再び光りが通るようになります。ですから、光りを遮る状態を持続するためには交流で電磁界を作り、常に磁界を変化させる必要があります。
今回の温度計では60Hzの矩形波で電磁界を作り、数字の表示をさせています。
液晶の結晶の向きは電磁界のみで変わるので、電流はほとんど流れません。時計などの表示器に使われているのもほとんど電力を消費することなく数字などを表示できるので重宝なわけです。
Nematic(ネマティック)とはギリシャ語で「糸:Thread」の意味だそうです。
最近はPCのディスプレーにカラー液晶が良く使われますが、原理は同じです。後ろを透けて見えるようにするかしないかです。液晶自体は発光しないので、バックライトを使い、赤、緑、青のフィルムを通過する光を液晶で通過させるか遮るかの制御を行います。技術的には細かい表示をきれいに安定して表示するために高度な技術が駆使されています。
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